※本記事は2026年9月時点の情勢をもとにしています。
以前、「革命防衛隊 vs 国軍:知られざるイラン軍内部の微妙なパワーバランス」という記事を書いた。
2025年6月、イスラエルによるイラン攻撃が始まった直後のことである。当時の記事では、革命防衛隊(IRGC)が司令官やミサイル関連施設に大きな損害を受ければ、もう一つの軍隊である国軍(Artesh)が相対的に浮上する可能性があるのではないか、と書いた。
あれから1年以上が経った。
実際に起きたことは、少し違った。
革命防衛隊は2025年の戦争で深刻な打撃を受け、2026年に始まった米国・イスラエルとの戦争でも再び多数の幹部を失った。それでも革命防衛隊という組織そのものは崩れず、ミサイルやドローンによる反撃を継続した。そして戦争が長引くにつれ、むしろイランの軍事・安全保障政策における革命防衛隊の存在感は強くなっている。Reutersは2026年3月、革命防衛隊が戦争開始後、主要な意思決定に以前より深く関与するようになったと報じている。
一方、国軍が革命防衛隊に代わって軍事の主導権を握った形跡はない。
そして2026年8月、イランでは両軍を束ねる上位の指揮機構を統合する動きまで始まった。
イランの「二軍体制」はなくなろうとしているのだろうか。
結論からいえば、そうではなさそうだ。
革命防衛隊と国軍という二つの組織は残す。その一方で、戦争を遂行するための指揮系統は一本化する。しかも、その統合は革命防衛隊の政治的影響力が以前より増した状況で進んでいる。
イランの二軍体制は、対立する二つの軍が並ぶ構造から、革命防衛隊優位のまま一体運用される構造へ変わりつつあるように見える。
そもそもイランの二軍体制は「対等な二軍」ではなかった
イランには、普通の国軍に相当するArteshと、イスラム革命防衛隊(IRGC)という二つの大きな軍事組織が存在する。
この二重構造は1979年のイスラム革命に由来する。
革命後の新政権は、パフラヴィー王朝時代から存在していた国軍を完全には解体しなかった。一方で、旧体制とのつながりを持つ国軍だけに新しい体制の防衛を任せることもできなかった。そこで革命とイスラム共和国体制そのものを守る組織として作られたのが革命防衛隊だった。
この役割分担は現在のイラン憲法にも残っている。第143条は国軍に国家の独立と領土保全を守る役割を与え、第150条は革命防衛隊を「革命とその成果」を守る組織として存続させることを定めている。
ただし、制度上二つの軍があるからといって、両者が同じ重みを持ってきたわけではない。
戦車や戦闘機、通常型の海軍、国土防空など、伝統的な正規軍の仕事は国軍が担ってきた。一方、弾道ミサイル、長距離ドローン、国外で活動するコッズ部隊、地域の代理勢力との関係、国内治安を担うバスィージなど、イラン政権が政治的・戦略的に重視する能力の多くは革命防衛隊側に集められてきた。
米国防大学系のNESA Centerが2026年に公表した分析では、この関係を「managed subordination(管理された従属)」と表現している。
国軍を弱体化させて役に立たなくするわけではない。国土を守れるだけの能力は持たせる。しかし、独立した政治勢力として政権を脅かせるほどの力は与えない。
つまり、もともとの二軍体制からして「革命防衛隊と国軍が対等に競争する制度」というより、政治的には革命防衛隊を優位に置いた二重構造だった、と考えたほうが実態に近い。NESAの分析でも、国軍は規模こそ大きいものの、政権にとって政治的・戦略的価値の高い能力は革命防衛隊側に置かれてきたとしている。
それでも戦争前までは、二つの軍はそれぞれ独自の組織として存在していた。
この構造を大きく揺さぶったのが、2025年以降の戦争だった。
2025年の戦争で、二軍を別々に動かす弱点が露呈した
2025年6月、イスラエルはイランに対して大規模な航空攻撃を実施した。
特に目立ったのが、イラン軍上層部に対する「斬首攻撃」だった。革命防衛隊司令官や空宇宙軍司令官をはじめ、多くの高級将校が短期間に死亡した。
当時の私は、ここから革命防衛隊の影響力が低下し、国軍の立場が相対的に強くなる可能性を考えていた。
しかし、戦後にイランが始めたのは国軍への権限移譲ではなかった。
まず進められたのは、軍事的な意思決定をまとめることだった。
2025年8月、イランはイラン・イラク戦争期に存在していた「国防評議会(Defence Council)」を復活させた。Reutersによれば、その目的は国防計画を中央で検討し、軍全体の能力を強化することにあった。12日間の戦争を経験した直後の制度改革だったことを考えれば、戦時の意思決定をより集中させる狙いがあったと考えるのが自然だろう。
これは後の動きを考えると重要である。
革命防衛隊と国軍を統合する動きが突然2026年に始まったわけではない。2025年の戦争直後から、二つの軍をどう効率的に動かすかという問題はすでに意識されていた。
革命防衛隊は大打撃を受けても、戦争を続けられた
さらに大きな転換点になったのが、2026年2月末に始まった米国・イスラエルによる大規模攻撃だった。
この攻撃でも、革命防衛隊は上層部に大きな損害を受けた。
普通に考えれば、司令官を繰り返し失った組織は混乱する。革命防衛隊が弱体化すれば、その穴を国軍が埋める展開もあり得そうに見える。
ところが、革命防衛隊はそう簡単には崩れなかった。
Reutersの取材によれば、革命防衛隊は指導部が攻撃される事態を以前から想定し、指揮権を下級部隊まで分散していた。それぞれの司令官について複数段階の後継者を事前に決め、上官が死亡しても次の人物がすぐ指揮を引き継げる仕組みを作っていたという。
実際、2026年の攻撃で最高幹部を失った後も、革命防衛隊はミサイルやドローンによる攻撃を続けた。
Reutersが取材したイラン・地域関係者6人は、戦争開始後、革命防衛隊がイランの主要な意思決定に以前より大きく関与するようになったと証言している。
ここが、2025年に私が予想していた展開との大きな違いだった。
革命防衛隊は「被害を受けなかったから強くなった」のではない。
むしろ深刻な被害を受けた。
それでも組織を維持し、反撃を続けた。その結果、戦争を続けるうえで革命防衛隊が欠かせない組織であることを、逆に示す形になった。
国軍が得意とする「普通の戦争」の価値は相対的に下がった
革命防衛隊が生き残ったことだけでは、国軍が浮上しなかった理由をすべて説明できない。
もう一つ大きかったのが、今回の戦争で何が実際に役に立ったのか、という問題である。
国軍が主に持っているのは戦闘機、防空システム、戦車、通常型の艦艇といった伝統的な通常戦力だ。
ところが米国やイスラエルを相手にした航空戦では、こうした通常戦力が厳しい状況に置かれた。
NESA Centerの分析は、2025年と2026年の戦争によって、国軍が担ってきた通常戦能力が不均衡に大きな損害を受けたと評価している。その一方で、戦後のイランが敵にコストを与える手段として残ったのは、分散配置されたミサイルやドローンなど、革命防衛隊が握る兵器体系だったという。
もちろん、これは「革命防衛隊だけが無傷だった」という意味ではない。革命防衛隊のミサイル部隊や海軍も大きな損害を受けている。
それでも、イランが米国やイスラエルに対して直接反撃する手段を考えれば、弾道ミサイル、ドローン、機雷、ホルムズ海峡における非対称戦といった能力の比重は高い。
2026年9月に再び米国とイランの大規模な攻撃の応酬が起きた際も、イラン側の反撃の中心はミサイルとドローンだった。
極端に言えば、国軍が得意とする「普通の軍隊同士の戦争」で米国やイスラエルと正面から戦うことが難しくなるほど、革命防衛隊が長年整備してきた非対称戦力の価値が上がってしまう。
革命防衛隊が弱体化したから国軍の出番が増える、という単純な話にはならなかった。
ハメネイ死後、軍事だけでなく政治でも革命防衛隊の比重が増した
2026年の戦争では、さらに大きな出来事が起きた。
長年イランの最高指導者だったアリー・ハメネイが死亡したことである。
ハメネイは単なる国家元首ではない。革命防衛隊、国軍、聖職者、政府など、イスラム共和国を構成する複数の権力集団の上に立ち、最終的な調整を行う存在でもあった。
その人物が突然いなくなった。
後継の最高指導者には息子のモジュタバ・ハメネイが就いたが、戦時下の実際の権力構造は以前とはかなり違うものになったようだ。
Reutersは2026年4月、主要な戦争方針や政治判断が革命防衛隊と最高国家安全保障評議会を中心とする安全保障機構に集中し、モジュタバは父親ほど強力な単独の意思決定者にはなっていないと報じた。
つまり革命防衛隊は、軍事組織として生き残っただけではない。
最高指導者による強力な調停が弱まったことで、国家の意思決定そのものに対する影響力も増した。
NESA Centerも、アリー・ハメネイの死によって各勢力を均衡させていた人物が消え、安全保障・軍事部門が優位になる流れが加速したと分析している。
この環境で国軍だけが政治的に浮上する余地は、むしろ小さくなったと考えられる。
そして「二つの軍を動かす頭」を一つにし始めた
こうした流れの先にあるのが、2026年8月の軍上層部再編である。
8月10日、最高指導者モジュタバ・ハメネイは、新しい国軍統合参謀本部(AFGS)トップのアリー・アブドッラーヒーに対し、AFGSと「ハータム・アル=アンビヤ中央司令部(KOACH)」の統合を完了するよう命じた。
少し分かりにくいので、役割を簡単に整理したい。
AFGSは、革命防衛隊と国軍を含めたイラン軍全体の戦略や軍事政策を調整する組織である。
一方のKOACHは、戦争が始まった際に実際の統合作戦を指揮する司令部だ。
もともと両者は一体の組織だったが、アリー・ハメネイが2016年に分離していた。それを今回、再び一つに戻そうとしている。ISWとCritical Threats Projectは、統合によって革命防衛隊と国軍の調整を改善し、重複を減らし、戦時の意思決定を速くする狙いがあると分析している。
つまり現在進んでいるのは、革命防衛隊と国軍そのものの合併ではない。
二つの軍は残す。
その上で、二つの軍を動かす「頭」を一つにするという再編である。
2025年、2026年と続けて司令官を狙った攻撃を受けたイランからすれば、これはかなり現実的な改革でもある。
革命後のイランが二つの軍を持った理由には、政治的な相互監視という意味があった。しかし実際に米国やイスラエルと戦争を続けるとなれば、複数の司令部が並立し、軍事政策と実際の作戦指揮が分かれていることは弱点になり得る。
平時の体制防衛に合理的だった仕組みが、戦時には非効率になる。
二軍体制そのものを廃止せず、その非効率だけを減らそうとしているのが現在の再編なのだろう。
統合指揮のトップにも革命防衛隊の色が見える
さらに興味深いのが人事である。
新しいAFGSトップとなったアリー・アブドッラーヒーは、過去に革命防衛隊空軍の副司令官を務めた経歴を持つ。治安・内務分野での経験も長く、純粋な国軍出身者ではない。
一方、副参謀長には国軍地上軍出身のキオマルス・ヘイダリが入った。
この人事だけを見て「国軍が革命防衛隊の指揮下に入った」と言うのは強すぎる。
革命防衛隊司令官が国軍司令官へ直接命令するような組織改編が行われたわけではない。両軍は今も別の組織であり、それぞれの司令系統も残っている。
ただ、革命防衛隊出身者を含む上位の統合指揮機構が両軍をまとめ、その下に国軍出身の幹部も組み込む形になっているのは確かである。
そこに、戦争を経て革命防衛隊の政治的発言力そのものが増している状況を重ねると、現在の方向性が見えてくる。
国軍を革命防衛隊へ吸収するわけではない。
国軍という組織は残しながら、革命防衛隊優位の安全保障体制の中で、一体的に動かす方向へ進んでいる。
二軍体制はなくならない。ただし「二つの独立した軍」ではなくなっていく
では、イランの二軍体制は今後なくなるのだろうか。
少なくとも2026年9月時点では、その可能性は低そうだ。
国軍には数十万人規模の人員と陸海空・防空戦力があり、イランの国土そのものを守る仕事がある。これを革命防衛隊へ丸ごと吸収する必要性は乏しい。
憲法上も両者は別々の役割を持つ組織として規定されている。
一方で、二つの軍がそれぞれ独立した方向を向き、上層部だけが調整する従来型の二軍体制も変わりつつある。
2025年の戦争後には国防評議会が復活し、2026年には軍事戦略を作る組織と統合作戦を指揮する組織の統合まで始まった。
同時に、革命防衛隊は深刻な損害を受けながらも組織を維持し、ミサイルやドローンによる継戦能力を示した。最高指導者の交代後には、政治的な意思決定への影響力も強まっている。
NESA Centerが言う「管理された従属」は戦争前から存在していた。しかし2025年と2026年の戦争は、その関係を弱めるより、むしろ補強したというのが同分析の結論である。
2025年の記事を書いた時点では、革命防衛隊が攻撃で弱れば国軍が相対的に浮上する可能性もあると考えていた。
実際には逆だった。
革命防衛隊が傷ついても国軍がその役割を代替できたわけではなく、イランは残されたミサイル・ドローン・非対称戦能力へさらに依存した。そして戦争を効率的に続けるため、両軍を束ねる上位指揮系統の統合まで進め始めた。
イランの二軍体制は消えようとしているのではない。
二軍の看板を残したまま、一つの戦争機構として動く方向へ変わろうとしている。
そして、その統合された軍事・安全保障体制の中で、現在もっとも大きな政治的・戦略的影響力を持っているのは、やはり革命防衛隊なのである。
参考資料
- Constitution of the Islamic Republic of Iran, Articles 143–150
- Reuters, "Ali Larijani reappointed secretary of Iran's top security body", 2025年8月5日
- Reuters, "Iran's Revolutionary Guards take wartime lead, ensuring harder line, sources say", 2026年3月4日
- Reuters, "Iran's Guards seize wartime power, weakening Supreme Leader's role", 2026年4月28日
- NESA Center / CENTCOM CSAG, "Constrained Shield: Iran’s Artesh After the 12-Day War and Operation Epic Fury", 2026年6月30日
- Institute for the Study of War / Critical Threats Project, "Iran Update Special Report, August 10, 2026"